枚挙に暇がない

自分の脳内を形にしたい

好きだったバンドの話

 

 

  中学2年生の時、私は「monobright」に出会った。その頃の私は、テレビと漫画好きをこじらせていた。学校を転校して、新しい環境にどこか馴染めない、ぎこちなさを感じていた。誰かと誰かが、誰かを評価し、値ふみする。そこは薄暗く、どんよりと重たい空間だった。家に帰ると、その息苦しい時間を無かった事にするために私は逃避に走った。その結果、小さいときからあった、テレビと漫画好きを悪化させてしまったのである。


 そんな逃避中に見た音楽番組に一組、聴き覚えのある曲を歌うバンドがいた。それが「monobright」だった。演奏している曲は、アニメ銀魂の主題歌にもなった「アナタMAGIC」。とび跳ねながら踊れそうな軽快でポップな音と癖のある歌い方が印象的だった。ブラウン管ごしに彼らをじーっと見る。白いポロシャツに黒スキニーに黒ぶちメガネ…謎の優等生スタイル。音と一緒にはじける彼らの動き。見ているこちらまで気持が乗ってきた。ボーカル桃野陽介の動きが気になる。じわりじわりと滲み出る、必死そうな顔。そして、何というか時々見せる変顔とクネクネした動きがツボにハマった。…昔で言う戸川純の再来か。なんだ、この奇人は。馬鹿にするのではなく、純粋に笑いが込み上げてきた。あんなに憂鬱だった中学の世界など狭い狭い。世の中は広いのだと、まるで魔法にかけられたみたいに気分が明るくなった。以来、私は彼らのファンを自称している。今年で、5年目(※2013年当時)だ。


 5年もファンをやっていると、変化に敏感になってくる。特に彼らはビジュアル的にも曲調的にも移り変わりが激しい。彼らの活動は、大きく4つに分類される。

 インディーズからデビュー初期の白ポロシャツ時代。白ポロシャツを脱ぎセカンドシーズンと声明した脱皮時代。

 脱皮時代に発売したセカンドアルバムをプロデュースした経緯から、元「BEATCRU SADERS」の日高央が電撃加入した結婚時代。この時代に小文字から今の大文字の「MONOBRIGHT」に改名した。

 日高央が脱退し、元の白ポロシャツ4人組に戻った現在。

 一般的には、白ポロシャツ時代から脱皮時代にかけて彼らの持ち味である音楽「捻くれロック・ポップミュージック」が完成したと言われている。彼らの全盛期だ。それに続く結婚時代。日高央加入後、発表されたミニアルバムでは、今までの捻くれたポップさは薄れ、洋楽のオマージュを得意とする日高央の作風が色濃く出ていた。路線変更と言われたこの時代は、多くのファンが彼らから遠のいた。確かに全盛期のポップさは、時々顔を出す程度になってしまった。しかし、結婚時代にリリースされた3枚のアルバムでは、意外性・音楽的広がり・ライブの温度を完全パッケージと異なるコンセプトで、各々のテイストの傑作を仕上げたりなど、彼らの新しい一面を見ることができた。特にこの時代の集大成といえるであろう、完全新作ライブレコーディングアルバム、「新造ライヴレーションズ」では、彼らの進化したボーカル力・演奏力などを知ることができた。自分がライブに足を運ぶきっかけになったのはこのアルバムがきっかけである。
 しかし、そんな彼らにどこかで物足りなさを感じていた。曲調を壊して更新を繰り返す彼らは次はどこに行くのだろう。不安はあるが、期待もあった。


 10月30日水曜日、午後7時。私は大阪心斎橋のライブハウスにきていた。大学に入って彼らのライブに行き始め、今回で3回目。初のワンマンライブだ。チケット完売ということもあり、会場内は約3百人のファン達でぎゅうぎゅうだった。前後左右、どこを見ても彼らのライブTシャツ着た人達。中には、本当に初期の頃のTシャツを着た人達がいた。「彼らを好きな人」しかいない。「歴史」をひしひしと感じる。


「おはようございます!MONOBRIGHTです!」


 ボーカル桃野陽介の恒例と言える挨拶とギターの「ジャジャコーン!」という音を合図に深いロイヤルブルー色の舞台照明が色鮮やかな虹色に変化した。光の線がスゥーっと伸びる。彼らのトレードマークである、白ポロシャツが浮かび上がり歓声が響いた。ドラム瀧谷翼の音を合図に演奏が始まる。冒頭の不揃いなドラムのリズムと畳みかけるようなサビへのギターフレーズが中毒性を誘う「頭の中のSOS」。ゆったりと、でも自然にリズムに乗れる楽曲だ。
 続いて、インディーズ時代の曲から「R+C」。今までのライブで初期曲の演奏を聴いたことが無かったから、度肝を抜かれた気分だ。二曲の演奏を終え、MCに入った桃野陽介の衝撃的発言。


 「来週発売の新しいアルバム、MONOBRIGHT three全部ここで聴いて行ってもらいます!」


開始15分。すでに汗ダラダラな彼は、自信満々にそう言った。ぜ、全曲ですか!3曲しか知らないけど、大丈夫ですか! 「ヒュー」だとか、「いえーい」とのりのりな周り。とりあえず私ものってみる。
 数分後に自分の受け身姿勢を後悔した。徹頭徹尾疾走感に溢れたロックなポップソング達が自分を通り過ぎていく。原点回帰を通り過ぎた、突き抜けたテンションと力溢れるサウンド、彼らの本来の持ち味である「捻くれロック・ポップミュージック」に収まらない自由な曲作り。アルバム一枚として考えれば、今までの彼らと違いノーコンセプトに感じられたが、中身は彼らの元々の持ち味と過去数々の試行錯誤や経験を融合させた作品ばかりだった。壊して更新してきたと思われた彼らの色が目の前にある。観客達の纏う時代たちが混ざり合って、楽曲に反映されている。彼らの大きさを知った。
「新曲ばっかりなのにノリノリだな、おい! あーりがとっ!」
再び入る桃野陽介のMC。時計を見ると開始から50分が経過していた。…くたくただ。疲労感の中に込み上げてくる満足感。汗をだらだらと流しながら、満足そうに口元をにやけさせる姿が中学の時に初めて見た彼らと重なる。彼らも年をとり、私も年をとった。その歴史の長さは、目の前に広がるTシャツたちが証明している。


 この5年間、彼らにとって無駄になったことは、きっと一つもないのだろう。そんな着々と前を向いて歩き続けた彼らを見ていると、普段、自分の行動に自信が持てない自分でも少しだけ勇気がわいてきた。試行錯誤を繰り返してきた彼ら。拙いながらも自分のやりたいことをいくつかやってきた自分。中学の時に朗読を。高校の時に美術を。自分の人生はバラバラなことばかりをしてきたなと思っていたが気づいたら、その二つの延長線上であるお芝居をしていた。今の突き抜けて、素敵な彼らを見ながら、自分の人生を思い返してみると、「ひょっとすると過去に無駄なことなんて一つもなかったんじゃないか」と思えてきた。人生の歩みは実は、意識していなくても積み重ねで、歩みはどこかで繋がっているのかもしれない。そう思うとなんだか楽しくなってきた。そうだ、彼らに出会ったことを幸せに思おう。今日も彼らの「音」を聴きながら、ぼんやりと幸せ気分にひたってみる。素敵な彼らのMAGICにかけられながら。

 

行ったライブ→ブライト秋のPangeaまつり(2013年10月30日大阪・心斎橋Pangea/MONOBRIGHT)

2013年12月8日初稿

2020年2月note加筆修正/投稿

2020年9月修正投稿


【あとがき】
10代の頃の文章なので、前半のひねくれがエグい。修正するのが恥ずかしかった。

この日は清水音泉さんが前説してて、「場内満員なのでくれぐれもお気をつけください。押しちゃうと最前の方が海老ぞりになりかねませんので。」とアナウンスされていて、真ん中あたりで超緊張しながら見た。周辺客のモッシュで頭叩かれたのは良き思い出(にしたい)

この4年後に彼らは活動休止してしまうのだが、その時の話はまたいずれ。