枚挙に暇がない

自分の脳内を形にしたい

初めてライブをみた夜の話

「世界も涙も強さも忘れて素敵なあなたに歌われたいよ」(monobrightアナタMAGICより)

 

 

 今まで見たことのなかった憧れの世界が目の前に広がっている。私は全身の肌がぞわぞわと、小刻みに震え上がるのを感じながら、若干外れたハンドクラップを鳴らした。
 

 4月7日午後6時。私はまるで一人、海外に取り残されたような気分を味わっていた。実際に海外にいたわけではない。家から電車で15分ほどの所にあるライブハウス前にいた。以前は遠目で眺めては、華やかなイメージを思い描いていたその場所は、迷宮奥地のように見えた。それほど、ライブイベントという未知のものに緊張していた。


 「私は人が苦手だ」
そう思ったのは中学二年生で転校したことがきっかけだった。別にイジメを受けたとか、そういうことがあったわけではない。むしろ仲の良い友人もいた。ただ学校が自分には合わなかった。下世話な話を大声で得意げに語るクラスメイト。仲の良い友人に見えていた子達が相手が見えなくなると悪口を言い合う。毎日、毎日、そんな生活を繰り返していくことにだんだん居心地の悪さを感じていった。


「この人なら大丈夫だろう」
「この人は、〇〇していたから苦手」


そうして私は人間不審になった。高校で環境が変化し、その中である程度克服したつもりだが、未だに拭きれていない部分もあると思う。やっぱり人が怖いのだ。それでも勇気を振り絞って、このライブに行きたい‼︎そう思うには理由があった。今回訪れたイベントは、「キャピタルレディオ」と言って、毎年2日間にわたって、何組かのバンドが集い、京都でライブを行うものだ。今回、私の好きなバンドが出演するということで、これを機会にライブデビューをすることにしたのだ。

 

 「MONOBRIGHT」それが彼らのバンド名だ。彼らの音楽に触れたのはとあるアニメのタイアップ曲、「アナタMAGIC」が始まりだった。アニメのタイアップらしい歌いやすい曲調と歌詞、そこに「まままう‼︎」という歌詞カードに表記されていない、よくわからない歌い方。CD音源を初めて聴いた時、変なバンドだなと思った。

 

 中学の時、たまたまミュージックステーションをつけたら、彼らの姿を見た。どちらかと言えば華やかな印象の出演人の中に不思議な一行。白ポロシャツにジーンズ、メガネとお揃いの優等生ビジュアルの彼らがおよそ堅気ではない雰囲気のタモリ氏と並んでいる。あの曲はこの人達が歌っていたのか。一気にテンションが上がった。
テレビ前を陣取る。四人のかなり緊張した面持ちをカメラが捉えたまま、ライブが始まった。曲が始まるとボーカルの桃野陽介は激しく首を振りながら、変顔をしている。(ように見えた)


かっこよく歌わなくても、むしろダサくても魅せられるんだ。すげー、このバンド‼︎
今まで贔屓歌手を今まで作らなかった、私のハートはそこで打ち抜かれた。
少しでも変なところを見せたら、なにかを言われる。まさに出る釘は打たれると学校で学習していた私には、彼らのダサくて、奇抜な姿はとてもかっこよくて輝いて見えたのをとてもよく覚えている。


「本日のお目当ては」
「も、モノブライトです、、、」


 整理番号順にスタッフの指示に従い入場する。切り取られたチケットの半券をしまいながら、オロオロと中に進むとギターの音が鼓膜を刺激した。あまりの迫力に鼓膜が痛んだ。ついに始まったのだ。前にも後ろにも人、人、人。前方の出演者を私はよく知らない。盛り上がる周りの人達。生きて帰れるだろうか。本当にラスボスに挑むような気分になってきた。
 しかし、それはただの杞憂だった。夜が更けていくと共に私は演奏にノれるようになっていた。よくわからないけど、胸がドキドキする。気づけば、トリの
「MONOBRAIGHT」の順番になっていた。それからは、目の前が減速したかのようにクリアに見えた。お馴染みのメロディーが演奏されていく。「アナタMAGIC」だ。なかなか無意識で使うことのなかった、表情筋が自然に綻んでいくのを感じた。
ノッケから汗だらだらで動き回るボーカル桃野とメンバー。
最初のMCで「トリが俺らとかおかしくない?!」と一笑いを取ると、次の曲を演奏し始める。オーディエンスも盛り上がっていて、桃野の満足そうな顔が束の間見えた。真顔、変顔、必死な顔しか見たことのない私はそのしたり顔に演者も人間なのだなと親近感が湧いた。お客さんもスタッフも関係なく楽しそう!私にはそう思えた。


 終演したのは、夜の10時前だった。未だ、夢物語にいるような気分になりながら家路を急ぐ。脳内でリフレインする歌声にまた一人、ニヤニヤしながら奇跡的に手に入れた出演者のサインボールを胸に抱いて、私のライブデビューは幕を閉じたのだった。
 よくよく考えてみると、私は今まで「最高!」とか、「かっこいい!」とか、人目を気にせず叫んだり、盛り上がりに釣られることがあまりなかった。それらを一夜でやってのけるだけの気持ちになったのだ。やっぱり、ライブって、歌手って、彼らってすごい。
 今までライブ自体の熱気や臨場感に憧れはあったが、怖さもあり触れることはできなかった。でも、今回触れてみて、今まで自分の遠くにあるものだとずっと思い込んでいた音楽ライブが随分近いものに感じられるようになった。いつまで彼らの音楽に触れていられるかはわからないけど、できる限り聴き続けたい。今日も私は彼らの音楽を聴いては、一日を頑張るのだ。
 

行ったライブ→CAPITAL RADIO ‘13(4月7日ひとりTOMOVSKY/Theピーズ/DOBERMAN/MONOBRIGHT)

 

【あとがき】初ライブとしては濃い出演者。トモフの次にピーズが出てきたとき「同じ人・・・?え、別人・・・?」と終演してからスマホを見るまで困惑した記憶がある。ちなみにもらったサインボールはピーズのあびさんとDOBERMANのGoeさん。翌年、学祭にバンド編成のトモフがきて最高にぶち上がり、すっかり大木兄弟にハマった。ピーズの武道館はチケット持ってたけど、関わってた芝居の本番でいけなくて。BD見て号泣した。

 

2013年4月20日初稿

2020年1月note加筆修正/投稿

2020年9月修正投稿